現在、局所進行頭頸部癌ではかなり強力な同時化学放射線療法が標準とされていますが、合併症がある場合や高齢患者さんですと標準的な対処が困難な場合も多々あります。そのため当院では標準的な薬剤を併用した治療が困難な症例を対象に杏林大学耳鼻咽喉科教室との協力のもと外来でTS-1を併用した同時化学放射線療法を行っています
食道癌は全身状態や病変の進行度などにもよりますが、可能な症例には同時化学放射線療法を行っています。一般的に食道癌では肺への被曝による致死的な放射線肺炎や、完全に制御できた場合でも長期的に心臓への副作用が問題となることがあります。そのため、当院では治療開始時から低線量の部分も含め肺野の線量を可能な限り軽減し、心臓についても線量が強い部分を左房部分にとどめる計画をしています(図は下部食道癌で右鎖骨上窩リンパ節転移症例の治療計画図と治療前後の画像)。
当院の特徴として、泌尿器科との連携により前立腺癌の症例が比較的多いことがあります。前立腺癌では局所に病変がとどまっていると考えられる場合は放射線治療が選択される場合も多く、当院では74Gy(一回2Gy、37回、約8週間)で治療を行っています。ランダム化試験などから70Gy以下とそれを超える線量とでは制御率に差があることが知られており、世界的には74Gy-78Gyが標準的な線量となっています。この場合、強度変調放射線治療が用いられる場合が多いのですが、一般的な強度変調放射線治療の場合は一回当たりの照射時間が7-15分と長くかかります。したがって、当院のように3DCRTでの治療を行っていて照射時間が3-4分の治療とでは生物学的にも単純比較はできません。そのため現在までのところ74Gyでとどめた治療を行っています。日本の強度変調放射線治療の先行施設ではMemorial Sloan-Kettering Cancer CenterのZelefskyらの成績を例示し可能な限り高線量のほうが有利と病院ホームページなどで提示している場合もありますが、実際のところ74Gyを超えれば長期的な予後に大きな差はないことがPSA再発率のグラフを見てもお分かりかと思います(3)。
当院の前立腺癌の放射線治療もかなりの症例数となってきましたが、Grade 2以上の副作用は数例にとどまっています。(成績に関しては前立腺癌の場合、評価可能となるのは10年以上先のこととなります。)
具体的な前立腺癌の放射線治療例を提示します。IMRTと同等以下の直腸線量となっており、前立腺も均等に照射されるため尿道でのホットスポット形成もなく晩期尿路障害の症例は今のところありません。
子宮癌や進行した前立腺癌、直腸癌など骨盤全体を照射する場合もあります。最近世界的には強度変調放射線治療を用いて放射線に弱い腸管の線量を落とした治療が試みられていますが、当院では通常照射を組み合わせ腸管線量の低減をはかった治療を行っています。
図は左がワシントン大学の例で右がCFIMRTによる治療計画例です。
本来なら重度の下痢のため治療を休止しなければならない患者さんも出てくる全骨盤照射ですが、この照射方法により下痢止めが必要となる症例もなく外来通院での照射を行っています。
緩和医療としての有痛性骨転移への放射線治療は古くから重要な役割を果たしてきました。近年ビスフォネート製剤(ゾメタなど)が有効とされ以前よりは依頼される頻度が少なくなって来たように思いますが、それでも適応となる症例は多いのです。特に麻痺が出現して48時間以内での治療がなされると、かなりの確率で麻痺の完成を防ぐことができたり、麻痺の回復がみられる場合があることが知られています。ガイドライン上もさまざまな線量、照射スケジュールが例示されていますが、最近結果の出たランダム化試験の結果から8Gy/単回照射と30Gy(3Gy/10回)照射では長期的にも差がないことが示されました(ただし単回照射では再照射率が多少増える)。
ガイドライン上は問題ないとはいえ8Gyを正常部、特に腸管などへ照射することに疑問があるため、可能な限り放射線を病変に集中させて治療を行う事にしています。この治療だと外来扱いとして1時間程度で治療が終了してしまいます。
脳転移などに対する定位照射に関しては近隣を含め都内にガンマナイフ施行施設も複数あるため、照射時間をかなり要するX線による治療は行わず希望される施設へ紹介することにしております。また、肺など躯幹定位照射につきましては成績を安定させるためには症例数が重要であるため、信頼できる施設への紹介を行うことにしておりますが、希望される患者さんについては通常分割の70Gyでの照射を行う場合もあります。