前立腺は男性の膀胱の下にある栗の実大の器官です。前立腺の働きは、前立腺液を分泌して、精子の運動・保護や、排尿に関与しています。世界では毎年90万人超の男性が前立腺がんと診断され、男性では肺がんに次いで二番目に多いがんです。
前立腺に発生する腫瘍には良性疾患の前立腺肥大症と悪性疾患の前立腺がんがあります。肥大症の症状は排尿困難や残尿感、夜間頻尿などがあります。前立腺がんもこれらの症状が出ることがありますが、初期には症状がなく、がんの進行に伴い、さまざまな症状が出てきます。
高齢化や食生活の欧米化に伴い、前立腺がん発生率が非常に増加しています。
特に症状がなくても、がんに罹患していることがあります。そこで、がんの早期発見を目的として、PSA(前立腺特異抗原)という腫瘍マーカー検査を行います。
PSA(前立腺特異抗原)の値が高い場合、前立腺がんが疑われます。DRE(直腸指診)やMRI検査、エコー検査等も行いますが、確定診断を得るには前立腺の組織検査(生検)が必要です。
この検査は入院が必要です。検査日の午前中に入院し、検査を行います。翌日の午前中には退院できます。(検査後の状態により、入院期間を延長することがあります)
血液をサラサラにする薬を服用している方は、検査前に服用を中止する必要があります(薬剤により中止期間が異なります)。内服されている方は担当医にお申し出ください。中止期間内に内服しますと、検査が受けられませんのでご注意ください。
前立腺がんには様々な治療法(手術、放射線療法、内分泌療法)があり、年齢、PSA値(診断時)、悪性度(グリソンスコア)、がんの広がり具合に応じて治療法が選択されます。
がんが前立腺にとどまっていて治癒(根治)が期待される場合には、一般的に手術や放射線療法が行われます。
周囲の臓器(精嚢や精管)ごと、全て摘出する方法です。摘出後は排尿路を確保するために膀胱と尿道をつなぎ直します(図1)。手術と聞くと“なんだか怖い”という印象を持たれる方も多いと思いますが、心配はいりません。もちろん手術は一定のリスクを伴うものですが、前立腺周囲の詳細な構造が明らかになり、合併症も少なくなっています。また、麻酔の進歩により術後の疼痛も大幅に緩和されています。
限局性前立腺がんには手術療法と放射線療法がありますが、最近の臨床試験で、放射線治療と比較して、前立腺の切除手術により生存率が向上することがわかりました。手術法も飛躍的に進化し、近年では手術支援ロボットを使用した手術の導入が進んでいます。人がもつ柔軟性と、機械がもつ精密性を合わせた手術で、従来とは別次元の治療です。当院では2021年より導入し、対象となる方にロボット支援手術を行っています。
がん治療の3本柱である外科手術・放射線治療・化学療法が連携し、泌尿器科のがん治療を支えます。副作用が少なく精度の高い放射線治療を受けていただけるよう、体制強化に努めています。
内分泌療法(内服・注射)や睾丸摘出術による治療も行っています。
前立腺がん細胞は精巣から放出される男性ホルモン(テストステロン)と副腎から放出される男性ホルモン(副腎アンドロゲン)の刺激により増殖を続けます。前立腺がんの内分泌療法は、これらのホルモンを遮断し、がん細胞の増殖を抑える治療法です。この治療法は、手術療法や放射線療法と異なり、がん細胞を完全に取り除いたり、殺してしまったりする治療ではなく、増殖を抑えておとなしくしてもらおうとするものです。
前立腺がん細胞に刺激を与える男性ホルモンは95%が精巣で産生され、残りの5%が副腎で産生されます。ホルモン療法はこれらのホルモンを遮断し、がんの増殖を抑えようとする治療法です。除睾術は両側の精巣を摘除することで、精巣から男性ホルモン(テストステロン)が放出されないようにします。
手術は陰嚢の皮膚を縦に3-5cm切り、精索(血管と精管、神経を包む束)を切断し、両側の精巣を摘出します(除睾術の場合、男性ホルモンは低下し、元に戻ることはありません)。
内服単独、注射単独、内服と注射の併用、除睾術単独、除睾術と内服の併用等があり、病状によって方法が異なります。
この内容は 広報誌 大和会だより「この先生に聞く 泌尿器科シリーズ」に掲載しています!
▶ 141号「過活動膀胱の新しい治療法 〜ボトックス療法で快適な日常を取り戻す〜」
▶ 139号「安全な医療を目指して 〜ロボット支援手術が登場した歴史的背景〜」
▶ 138号「前立腺がんの手術」