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脳卒中を予防する!外科的治療の役割について

東大和病院 脳神経外科 上條 貢司

脳梗塞の予防「危険因子を管理しましょう」

 どうすれば脳梗塞を予防できるのでしょうか?その答えはどういう人が脳梗塞になりやすいかを知れば分かります。脳梗塞の危険因子としては、先程高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙、心房細動などを挙げましたが、これらの危険因子を持つ多くの患者さまは脳梗塞になりやすいということになります。よって、脳梗塞予防にはこれらの危険因子の管理が必要で、先ずはそのコントロールが重要と考えられます。

「TIAに気を付けて!」「症状が消えても安心せず、直ぐ病院へ!」

 脳梗塞には前兆があることも知らなければなりません。一時的に半身の手足が動かなくなったり、ろれつが回らない、片方の目が見えなくなるなどの症状で、一過性脳虚血発作(以下TIA)と言われます。つまり脳梗塞の症状が出ても、数分で直ぐに消えてしまう発作です。症状が消えたからと言って、このTIAを放置すると約20%の危険度で3ヶ月以内に脳梗塞になり、その内の半数が48時間以内に起こると報告されています。このような症状が起きたら、それが一過性であっても安心せず、直ぐに脳卒中専門医を受診する必要があります。基本的にはTIAで来られた患者さまには緊急で入院治療を行い(48時間以内が最も危険だからです)、脳梗塞予防に抗血小板剤や抗凝固剤の投与など内科的治療を行います。また同時に、TIAの原因検索を行うことも重要です。代表的な原因としては心房細動など心疾患に由来するものと、動脈硬化から来る頸動脈の狭窄に由来するものが挙げられます。中でも頸動脈の狭窄に関しては、狭窄率が強ければ近日中に脳梗塞になる危険度が高く、脳梗塞を予防するために手術(頸動脈内膜剥離術で、以下CEA)が必要となります。

「CEAとは?」

図8

 前述のようにTIAを起こした患者さまや、以前に軽い脳梗塞を起こした患者さまに超音波検査やMRIなどで頸動脈の狭窄の有無を調べ、狭窄率が70%を超える高度狭窄を認めた患者さまに対しては、抗血小板などの内科的治療単独よりも、CEAを併用したほうが脳梗塞予防に優れているという有名な大規模調査があり、脳卒中治療ガイドライン2009でもCEAを行うことが強く勧められています。
頸動脈は左右一本ずつあり、それがあごの下で2本に分かれ、そのうちの1本が内頸動脈と呼ばれ脳の広い部分へ血流を送っています(図8)。

図9

 その内頸動脈の分岐部が動脈硬化によって内腔が狭くなり(狭窄)、そのため血流が低下したり、狭窄部で生じた小さな血のかたまりが飛んで行ったりして脳の血管を詰めた結果、脳梗塞を生じます(図9)。

 CEAは内膜剥離術と言い、その名の通り動脈硬化によって厚くなった血管の最も内側の膜(内膜)を外科的に剥がすことで狭窄を解除する治療です(図10)。手術方法は全身麻酔で頸部の皮膚をしわに沿って切開し、頸動脈を露出して血管を処断します。その後頸動脈に切開を加え、血流確保のため内シャントという管を頸動脈に通した状態で、内膜を丁寧に剥がし狭窄を解除します。

図10-1
図10-2
図11(術中写真)


術前MRA
術後MRA
図12

その後血管を元通りに縫合し、手術終了となります。手術時間は3時間以内で、傷も頸部のしわに沿っているため見立たず、入院期間は2週間程となります。

 さらに、このCEAはTIAや脳梗塞をおこした患者さま(症候性)のみならず、まだTIAも脳梗塞も起こしてはいないが頸部超音波やMRIの結果高度な狭窄を認めた患者さま(無症候性)にも有効であることがわかっています。また、症候性の患者さまにおいて、狭窄率が50%であっても手術の有効性が認められています。現在、我が国では、年間約2万人の方が手術を受けておりますが、その数は年々増加しつつあります。

 尚、頸動脈狭窄症に対しする新しい治療方法として、頸動脈ステント留置術(以下CAS)があり当院でも積極的に行っております。これはカテーテルを大腿動脈から頚動脈の狭窄部位にまで進め、自己拡張するステントを狭窄部に留置して血管を拡張する治療です。適応はガイドラインでも示されているように(下表)、重篤な心疾患や呼吸器疾患など何らかの原因でCEAが行えない患者さまに勧められる治療です。またCASは無症候性の患者さまに対して有効との報告は未だ乏しく、当院ではCEAを第一選択とし治療を行っています。

表:CEA危険因子(少なくとも1つが該当)

  • 心臓疾患(うっ血性心不全、冠動脈疾患、開胸手術が必要、など)
  • 重篤な呼吸器疾患
  • 対側頸動脈閉塞
  • 対側喉頭神経麻痺
  • 頸部直達手術または頸部放射線治療の既往
  • CEA再狭窄例
  • 80歳以上
(脳卒中ガイドライン2009より)

頭痛を含め症状のある方は、脳ドックではなく、脳神経外科、脳神経内科の一般外来を受診ください


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