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脳卒中を予防する!外科的治療の役割について

東大和病院 脳神経外科 上條 貢司

クモ膜下出血

クモ膜下出血のCT所見

 クモ膜下出血の80%以上は、脳の表面の比較的太い血管にできた瘤「脳動脈瘤」が破れることで発症します。脳動脈瘤は通常の血管と違い壁が薄くなっており、大きくなりやすく破れやすいのです。一度破れればクモ膜下出血になり(動脈瘤はクモ膜下腔というスペースにあります)、突然割れるほど頭が痛くなり、多くが嘔吐も伴います。さらに出血が激しい場合は即死することもあります。


クモ膜下出血の治療

 一度破れた脳動脈瘤は一時的に止血されますが、その後近日中に再び破れる可能性が高く、その際の死亡率は30〜50%にもなります。それを阻止するために治療を行います。治療法は「開頭クリッピング術」と「血管内コイル塞栓術」の二つに分かれます。

開頭クリッピング術

 以前から行われている治療方法で、現在でも最も確実な方法です。全身麻酔で開頭を行い、顕微鏡で見ながら脳の自然なすきまを分けて動脈瘤をむき出しにし、動脈瘤の首根っこ(頸部と言います)をチタン製のクリップで遮断します。これによって基本的に再破裂は無くなります。

図16.クリッピングのイメージ
図17.動脈瘤クリップ

当院では経験豊富な脳外科専門医4人が常勤し、24時間体制で手術を行っております。

図18
  1. 術前の3D-CT
  2. 開頭後
  3. クモ膜の切開とクモ膜下出血の吸引
  4. 脳動脈瘤露出
  5. 動脈瘤クリッピング
  6. 術後の3D-CT

血管内コイル塞栓術

 比較的新しい治療方法で、血管の中にカテーテルという細長い管を通し、そこから動脈瘤内にプラチナ製のコイル詰めることで再破裂を防ぎます。開頭を必要としないため、脳や全身に負担が少ないことが利点です。しかし長期的に見て再発や再増大の危険性は開頭クリッピング術より高く、また形や大きさによっては不向きな場合も多いところが欠点です。一般的には高齢者や全身状態が悪い患者さま、クリッピングが危険と判断される脳動脈瘤に行われます。当院でも血管内治療専門医が常勤し、適応となる脳動脈瘤に対し積極的に治療を行っています。

クモ膜下出血の合併症

 手術が終われば基本的に脳動脈瘤の再破裂は防げますが、それで安心とは言えません。実は一度クモ膜下出血になると、手術が成功してもその後脳梗塞を合併することがあるのです。つまり術直後は元気でも、その数日後に手足の麻痺が起きたり、しゃべれなくなったり、意識が悪くなったりするのです。原因は脳血管れん縮といって、クモ膜下出血によって脳血管が細くなり血流が滞ることによるものです。クモ膜下出血の患者さまの約25%にも生じると報告されており、クモ膜下出血も脳梗塞と同じく発症する前に予防することが大事です。


未破裂動脈瘤

 一般的に脳動脈瘤は突然出来て直ぐに破れるといったものではありません。実はクモ膜下出血になる方の多くが何年も前から脳動脈瘤を持っていて、破れて初めて見つけられるのです。近年、脳ドックなどで、破れる前に脳動脈瘤が発見される方が増えてきています。この脳動脈瘤を「未破裂脳動脈瘤」と言います。未破裂脳動脈瘤は、成人全体の約5%が保有すると想定されており、家族に動脈瘤の方がいるとその確率は2倍以上になると言われています。現在、我が国における未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は約1%で、5mmを超えると数倍高くなると報告されています(UCAS Japan)。つまり、大きさ5mm以上の脳動脈瘤がある方は、一年間で100人に1人はクモ膜下出血になるということです。 脳ドック学会や脳卒中ガイドラインでも5mmを超える動脈瘤に対しては原則治療を検討することが推奨されており、さらに5mm以下であっても脳動脈瘤の場所や形状によって、また破裂瘤に合併した場合などは同様に手術が推奨されています。
 当院ではこの未破裂動脈瘤に対しても積極的に治療を行っています。先ずはMRIなどで脳動脈瘤の精査を行い、脳動脈瘤を認めた場合は患者さまとじっくり話し合い、手術を行うかどうか決定します。手術は前述したように開頭クリッピング術と血管内コイル塞栓術の二つがあり、脳動脈瘤の形や大きさ、できている場所や、患者さま状態によって適応を分けます。どちらの治療も入院期間は2週間以内であり、開頭クリッピング術でも部分的な剃髪ですので審美的にも良好です。

図19.術前血管撮影
図20.術中写真
  1. 開頭後
  2. クモ膜下の切開
  3. 動脈瘤露出
  4. クリッピング
  5. クリッピング終了時


頭痛を含め症状のある方は、脳ドックではなく、脳神経外科、脳神経内科の一般外来を受診ください


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