精神科プログラム

研修施設:杏林大学医学部付属病院

  1. 研修プログラムの概要

    精神神経科は、32 床の開放病棟(うち保護室 1床)を有し、年間 400 名超の入院患者の治療を行っている。疾患はうつ病、双極性障害、不安障害、統合失調症、認知症、パーソナリティ障害、摂食障害、神経発達症、睡眠障害など多岐にわたり、基本的な精神症状評価および精神科治療を学ぶことができる。また、1・2 次外来における精神科救急対応および他科入院患者のコンサルテーション・リエゾン精神医療の研修も行うため、様々な場面における初期対応を習得することができる。さらに、難治性うつ病の診断目的の検査入院や、終夜睡眠ポリグラフ検査などの睡眠検査入院を行っており、精神科診療を幅広く研修することが可能である。主な研修の場所となる2-3A 病棟は精神保健福祉法に基づく病棟であり、患者の人権に配慮しつつ、行動を制限する医療形態についての理解を深められる。

  2. 研修目標

    1. 医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム)
      1. 社会的使命と 公衆衛生への寄与
        社会的使命を自覚し、説明責任を果たしつつ、限りある資源や社会の変遷に配慮した公正な医療の提供及び公衆衛生の向上に努める。
      2. 利他的な態度
        患者の苦痛や不安の軽減と福利の向上を最優先し、患者の価値観や自己決定権を尊重する。
      3. 人間性の尊重
        患者や家族の多様な価値観、感情、知識に配慮し、尊敬の念と思いやりの心を持って接する。
      4. 自らを高める姿勢
        自らの言動及び医療の内容を省察し、常に資質・能力の向上に努める。
      5. 社会人としての常識と研修態度
        社会人としての常識を身につけ、指導者の指示に従って積極的に研修を行うことにより、院内での自らの責任を果たす
    2. 医師としての資質・能力
      1〜9 は、プログラム全体に共通する目標のうち、当科において研修可能なものを示す。また10 には当科に特有の目標を示す。
      1. 医学・医療における倫理性
        1. 人間の尊厳を守り、生命の不可侵性を尊重する。
        2. 患者のプライバシーに配慮し、守秘義務を果たす。
        3. 倫理的ジレンマを認識し、相互尊重に基づき対応する。
        4. 利益相反を認識し、管理方針に準拠して対応する
        5. 診療、研究、教育の透明性を確保し、不正行為の防止に努める。
      2. 医学知識と問題対応能力
        最新の医学及び医療に関する知識を獲得し、自らが直面する診療上の問題について、科学的根拠に経験を加味して解決を図る。
        1. 頻度の高い症候について、適切な臨床推論のプロセスを経て、鑑別診断と初期対応を行うことができる。
        2. 患者情報を収集し、最新の医学的知見に基づいて、患者の意向や生活の質に配慮した臨床決断を行う。
        3. 保健・医療・福祉の各側面に配慮した診療計画を立案・実行できる。
      3. 診療技能と患者ケア
        臨床技能を磨き、患者の苦痛や不安、考え・意向に配慮した診療を行う。
        1. 患者の健康状態に関する情報を、心理・社会的側面を含めて、効果的かつ安全に収集する。
        2. 患者の状態に合わせた、最適な治療を安全に実施する。
        3. 診療内容とその根拠に関する医療記録や文書を、適切かつ遅滞なく作成する。

        上記の目標を達成するために、以下の臨床手技の修得*を必須とする(当科で研修が可能なもの)。
        医療面接(病歴聴取)
        基本的な身体診察(婦人科の内診、眼球に直接触れる診察を除く)
        導尿法
        採血法(静脈血、動脈血
        動脈血ガス分析(採血、計測)
        細菌培養の検体採取(耳漏、咽頭スワブ、体表の分泌液、血液、尿)
        心電図(12 誘導)
        圧迫止血法
        創部消毒とガーゼ交換
        軽度の外傷・熱傷の処置
        注射法(皮内、皮下、筋肉、静脈確保)
        胃管の挿入と管理(注入を除く)
        *「修得」とは、指導医や上級医の直接の指導・監督下ではなく、単独または看護師等の介助の下で実施できるようになることを意味する。ただし、小児や協力の得られない患者での単独実施まで求めるものではない。
      4. コミュニケーション能力
        患者の心理・社会的背景を踏まえて、患者や家族と良好な関係性を築く。
        1. 適切な言葉遣い、礼儀正しい態度、身だしなみで患者や家族に接する。
        2. 患者や家族にとって必要な情報を整理し、分かりやすい言葉で説明して、患者の主体的な意思決定を支援する。
        3. 患者や家族のニーズを身体・心理・社会的側面から把握する。
      5. チーム医療の実践
        医療従事者をはじめ、患者や家族に関わる全ての人々の役割を理解し、連携を図る。
        1. 医療を提供する組織やチームの目的、チームの各構成員の役割を理解する。
        2. チームの各構成員と情報を共有し、連携を図る。
      6. 医療の質と安全の管理
        患者にとって良質かつ安全な医療を提供し、医療従事者の安全性にも配慮する。
        1. 医療の質と患者安全の重要性を理解し、それらの評価・改善に努める。
        2. 日常業務の一環として、報告・連絡・相談を実践する。
        3. 医療事故等の予防と事後の対応を行う。
        4. 医療従事者の健康管理(予防接種や針刺し事故への対応を含む)を理解し、自らの健康管理に努める。
      7. 社会における医療の実践
        医療の持つ社会的側面の重要性を踏まえ、各種医療制度・システムを理解し、地域社会と国際社会に貢献する。
        1. 保健医療に関する法規・制度の目的と仕組みを理解する。
        2. 医療費の患者負担に配慮しつつ、健康保険、公費負担医療を適切に活用する。
        3. 地域の健康問題やニーズを把握し、必要な対策を提案する。
      8. 科学的探究
        医学及び医療における科学的アプローチを理解し、学術活動を通じて、医学及び医療の発展に寄与する。
        1. 医療上の疑問点を研究課題に変換する。
        2. 科学的研究方法を理解し、活用する。
        3. 臨床研究や治験の意義を理解し、協力する。
      9. 生涯にわたって共に学ぶ姿勢
        医療の質の向上のために省察し、他の医師・医療者と共に研鑽しながら、後進の育成にも携わり、生涯にわたって自律的に学び続ける。
        1. 急速に変化・発展する医学知識・技術の吸収に努める。
        2. 同僚、後輩、医師以外の医療職と互いに教え、学びあう。
        3. 国内外の政策や医学及び医療の最新動向を把握する。
      10. 当科に特有の目標
        精神疾患の患者を診療する上で基本となる臨床能力を身につける。
        1. 患者の人権に配慮しつつ、行動制限を行う治療形態について理解する。
        2. 治療の拒否や回避する患者への対応・配慮について理解する。
        3. 転移と逆転移の心理について理解する。
        4. 身体疾患をもつ患者の心理的な問題に対して、リエゾンコンサルテーション精神医学、サイコオンコロジーの知見を活かした対応・診療について理解する。
    3. 基本的診療業務
      コンサルテーションや医療連携が可能な状況下で、以下の各領域において、単独で診療ができる。当科で研修可能な項目のみ示す。
      1. 一般外来診療
        頻度の高い症候・病態について、適切な臨床推論プロセスを経て診断・治療を行い、 主な慢性疾患については継続診療ができる。
      2. 病棟診療
        急性期の患者を含む入院患者について、入院診療計画を作成し、患者の一般的・全身的な 診療とケアを行い、地域連携に配慮した退院調整ができる。
      3. 初期救急対応
        緊急性の高い病態を有する患者の状態や緊急度を速やかに把握・診断し、必要時には応急処置や院内外の専門部門との連携ができる。
  3. 研修方略

    1. 経験すべき症候および疾病・病態
      研修目標を達成するために、以下の各項目を経験することを必須とする。
      ※経験すべき症候及び経験すべき疾病・病態の研修を行ったことの確認は、日常業務に おいて作成する病歴要約に基づくこととし、病歴、身体所見、検査所見、アセスメント、 プラン(診断、治療、教育)、考察等を含むこと。

      外来又は病棟において、下記の症候を呈する患者について、病歴、身体所見、簡単な検査所見に基づく臨床推論と、病態を考慮した初期対応を行う。

      経験できる可能性
      ◯: はほぼ全員経験可能
      △: チャンスがあれば経験可能

      経験すべき症候
      項目 研修期間
      4週 8週 12週以上
      体重減少・るい痩
      発疹
      発熱
      もの忘れ
      頭痛
      めまい
      嘔気・嘔吐
      腹痛
      便通異常(下痢・便秘)
      腰・背部痛
      運動麻痺・筋力低下
      排尿障害(尿失禁・排尿困難)
      興奮・せん妄
      抑うつ
      成長・発達の障害

      外来又は病棟において、下記の疾病・病態を有する患者の診療にあたる。

      経験できる可能性
      ◯: はほぼ全員経験可能
      △: チャンスがあれば経験可能

      経験すべき疾病・病態
      項目 研修期間
      4週 8週 12週以上
      脳血管障害
      認知症
      高血圧
      肺癌
      肺炎
      急性上気道炎
      急性胃腸炎
      胃癌
      消化性潰瘍
      肝炎・肝硬変
      胆石症
      大腸癌
      腎不全
      糖尿病
      脂質異常症
      うつ病
      統合失調症
      依存症(ニコチン・アルコール・薬物・病的賭博)

    2. 当科の研修で経験できる項目
      研修目標 B-10 「当科に特有の目標」の達成に関連し、当科の研修で経験できる項目を示す。

      経験できる可能性
      ◯: はほぼ全員経験可能
      △: チャンスがあれば経験可能

      項目 研修期間
      4週 8週 12週以上
      臨床検査
      CT検査
      MRI検査
      核医学検査
      神経生理学的検査(脳波など)
      心理検査(ロールシャッハテスト、描画テストなど)
      知能検査(WAIS-Ⅲ、WISCなど)
      構造化面接による評価(MINI、MADRSなど)
      記銘力検査(改訂長谷川式簡易知能評価スケール、MMSE)
      症状
      睡眠障害
      うつと不安(悪性腫瘍などの身体疾患の抑うつを含む)
      妄想
      幻覚
      心気と身体化症状
      解離症状
      記銘力低下・失行・失認
      言語とコミュニケーションの質的な障害・不注意
      統合失調症の陰性症状
      ボディイメージの歪み
      急性中毒
      精神科領域の救急(自殺企図など)
      疾患・病態
      症状精神病
      認知症(血管性認知症を含む)
      気分障害(うつ病、双極性障害を含む)
      不安症・身体症状症・解離症
      自閉症スペクトラム症・ADHD
      摂食障害

    3. 指導スタッフ
      氏名 職位 略歴など 専門領域
      渡邊 衡一郎 教授・診療科長 昭和63年 慶應義塾大卒 臨床精神薬理学
      坪井 貴嗣 講師・医局長 平成16年 慶應義塾大卒 臨床精神薬理学・東洋医学
      櫻井 準 講師・外来医長 平成19年 慶應義塾大卒 臨床精神薬理学・医学教育
      今村 弥生 助教 平成14年 札幌医大卒 精神科リハビリテーション
      片桐 建志 助教、病棟医長 平成16年 筑波大卒 精神療法
      栗原 真理子 助教 平成11年 聖心女大院卒 臨床心理学
      大江 悠樹 助教 平成20年 筑波大卒 臨床心理学
      神田 優太 助教 平成24年 杏林大卒 睡眠医学

    4. 診療体制
      病棟診療においては、病棟医長の下、3 つの診療チームが構成される。それぞれのチー ムには、精神保健指定医をもつ指導医が 1~2 人、精神神経科の医員・後期研修医 2~4 人の合計 3~5人が所属する。研修医はその中の 1 つのチームに配属され、指導医の指 導の下、入院患者の診療やコンサルテーション・リエゾンにあたる。

    5. 週間予定
      8 新入院カンファレンス
      9 病棟研修 病棟研修 病棟研修
      外来研修
      病棟研修
      外来研修
      病棟研修
      外来研修
      10 教授回診
      11
      12
      13 病棟研修
      リエゾン研修
      病棟研修
      リエゾン研修
      作業療法
      病棟カンファレンス 病棟研修
      リエゾン研修
      病棟研修
      リエゾン研修
      作業療法
      14
      15 病棟研修
      16
      17

    6. 研修の場所 (病棟での実習、外来予診や陪席、見学)
      日時 場所 担当医
      研修初日 9:00 病棟 櫻井講師
      月~土 病棟 各チーム指導医
      木~土 外来 外来初診医
      病棟:第2病棟 3階 A、外来:外来棟 2階

    7. 研修医の業務・裁量の範囲
      日常の業務
      (病棟)
      1. 新入院患者に面接し、病歴を聴取する。
      2. 新入院患者の診察を行う。
      3. 新入院患者のプロブレム・リストを作成する。
      4. 朝と夕方に受け持ち患者を診察する。
      5. 受け持ち患者の採血を行う。
      6. 検査計画・治療計画を立案する。
      7. 回診時にプレゼンテーションを行う。
      8. カンファレンスにて症例提示を行う。
      9. 睡眠検査の介助をおこなう。
      10. (外来)
      11. 外来初診患者の予診をとり、その本診に陪席する。

      研修医の裁量範囲
      1. 「修得を必とする臨床手技」(研修目標 B-3)の範囲内で、修得できたことを指導医 が認めたものについては、指導医あるいは上級医の監督下でなく単独で行ってもよい。ただし、通常より難しい条件(全身状態が悪い、医療スタッフとの関係が良くない、1~2 度試みたが失敗した、など)の患者の場合には、すみやかに指導医・上級医に相談すること。
      2. 指示は、必ず指導医・上級医のチェックを受けてからオーダーすること。
      3. 診療録の記載事項は、かならず指導医・上級医のチェックを受け、サインを受けること。
      4. 重要な事項を診療録に記載する場合は、あらかじめ記載する内容について指導医・上級医のチェックを受けること。
    8. その他の教育活動
      有志は教室が関連する研究会・学会等に参加する。
  4. 研修評価

    研修目標に挙げた目標のうち評価表に挙げてある項目について、研修医自身による自己評価および指導医による評価を行う。また、指導医はコメディカル・スタッフの意見もふまえ、研修医の日々の研修態度についても評価する。研修終了時に指導医が研修医と面談し、評価表と研修態度に基づいて講評を行う。評価表は卒後教育委員会に提出され、卒後教育委員会は必要に応じて研修医にフィードバックを行う。

初期臨床研修

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